ビオフェルミンR錠・ビオフェルミンR散(一般名:耐性乳酸菌)は1974年から発売されている整腸剤です。

「お薬」と言っても化学的な物質ではなく、その主成分は「乳酸菌」という腸内細菌になります。乳酸菌は体内にも常在する菌であり、またヨーグルトなどの食べ物にも含まれている菌であるため、服用する事で大きな副作用が出る事はありません。安全に胃腸の調子を整えてくれるお薬なのです。

「ビオフェルミン」というお薬は有名ですので、多くの方が知っているかもしれません。しかし、実は医薬品としてのビオフェルミンにはいくつかの種類があります。

  • ビオフェルミン配合散
  • ビオフェルミン
  • ビオフェルミンR

これらは似ている名前で、どれも乳酸菌である事には変わりないのですが、それぞれに多少の違いがあります。そのため、症状に応じて使い分ける必要があります。

ビオフェルミンRはどんな特徴のある整腸剤で、どんな患者さんに向いているのでしょうか。ここではビオフェルミンRの効果や副作用についてみていきましょう。

 

1.ビオフェルミンRの特徴

まずはビオフェルミンRの特徴についてみてみましょう。

ビオフェルミンRは、抗生物質に耐性(抵抗力)を持った乳酸菌です。抗生物質を服用中に腸内細菌のバランスを整えたい時に使用されるお薬になります。

乳酸菌は腸内のpHを正常化させたり、悪玉菌の増殖を抑える事で腸内細菌のバランスを整えるはたらきがあります。これにより下痢・便秘や腹痛といった症状を改善させてくれます。

ちなみに医薬品である「ビオフェルミン」は乳酸菌であるビフィズス菌が含まれており、「ビオフェルミン配合散」は乳酸菌であるラクトミンと糖化菌(乳酸菌のはたらきを助ける菌)が含まれています。これらのお薬は、乳酸菌によって腸内環境を整えてくれるのです。

しかし腸内細菌は「菌」であるため、抗生物質(細菌をやっつけるお薬)で殺されてしまいます。例えば細菌性の胃腸炎にかかってしまい抗生物質を服用した時、抗生物質によって悪玉菌をやっつける事は出来ますが、同時に善玉菌である乳酸菌もやっつけてしまいます。

これでは病気を治すために抗生物質を投与したのに、かえって腸内細菌のバランスが乱れて下痢や便秘・腹痛が悪化してしまうという事になります。

実際、抗生物質を服用すると下痢になって困ってしまう事は珍しくありません。これは抗生物質が腸内細菌を殺して腸内環境のバランスを崩している事で生じているのです。

このような事を防ぐために開発されたのが「ビオフェルミンR」です。Rは「Resistance」の略で「抵抗」「耐性」といった意味になります。ビオフェルミンRは、抗生物質に耐性(抵抗力)を持った乳酸菌(耐性乳酸菌)であり、抗生物質によって殺される事がありません。

これによって抗生物質を服用中であっても、腸内細菌のバランスを整える事が出来ます。

胃腸の調子が悪い場合というと、下痢や便秘、腹痛などが挙げられますが、整腸剤は腸内のバランスを整えることでどちらの状態に対しても幅広く効果を発揮します。よく「整腸剤は下痢と便秘のどちらに効くのですか?」と患者さんから質問を頂きますが、腸内細菌のバランスの乱れが原因なのであればどちらにも効くのが整腸剤です。

つまりビオフェルミンRは抗生物質を服用している時に限って使用する整腸剤だという事です。抗生物質を服用していない時に、ビオフェルミンRを使う意味はないため、このような場合は通常の「ビオフェルミン」などが用いられます。

注意点としては、あらゆる抗生物質に対して耐性を持っているわけではありません。

  • ペニシリン系:ビクシリン、サワシリン、ユナシン、オーグメンチンなど
  • セフェム系:ケフラール、パンスポリン、フロモックス、メイアクトなど
  • マクロライド系:クラリス、ジスロマックなど
  • テトラサイクリン系:ミノマイシンなど
  • ナリジクス酸:ウイントマイロン

ビオフェルミンRの耐性が確認されているのは、これらの種類のみになります。これら以外については確認されていません。

例えば近年よく用いられる抗生物質であるニューキロノン系(クラビット、ジェニナック、グレースビットなど)は、ビオフェルミンRは使えませんし、もし併用しようとしても保険で適用されません。

ビフィズス菌というのは、一般食品にも含まれている自然な菌になります。ビオフェルミンRは医薬品ではありますが、化学的な物質ではなく乳酸菌が主成分であるため、大きな副作用が生じることはまずありません。

以上から、ビオフェルミンRの特徴として次のようなことが挙げられます。

【ビオフェルミンRの特徴】
・乳酸菌を含有し、整腸効果を発揮する
・抗生物質に耐性を持っている
・抗生物質によって腸内細菌が殺され、下痢や腹痛が生じるのを抑えるはたらきがある
・原則として抗生物質と併用して投与される
・大きな副作用がない

 

2.ビオフェルミンRはどんな疾患に用いるのか

ビオフェルミンRはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

下記抗生物質、化学療法剤投与時の腸内菌叢の異常による諸症状の改善

ペニシリン系、セファロスポリン系(セフェム型)、アミノグリコシド系、 マクロライド系、テトラサイクリン系、ナリジクス酸

ビオフェルミンRは整腸剤であり、腸内細菌の1つである乳酸菌を補うはたらきがあります。乳酸菌はいわゆる「善玉菌」であり、腸内環境を適正に整えてくれます。

ビオフェルミンRは抗生物質の使用によって腸内細菌のバランスが崩れて生じる症状に対して効果を発揮します。この添付文書の記載だと、具体的にどんな時に使うお薬なのかが分かりにくいのですが、具体的には、

  • 抗生物質の使用で腸内細菌のバランスが崩れて生じた下痢
  • 抗生物質の使用で腸内細菌のバランスが崩れて生じた便秘
  • 抗生物質の使用で腸内細菌のバランスが崩れて生じた腹痛

などに用います。

しかしビオフェルミンRは全ての抗生物質に耐性を持っているわけではありません。耐性が確認されてる抗生物質は、

  • ペニシリン系:ビクシリン、サワシリン、ユナシン、オーグメンチンなど
  • セフェム系:ケフラール、パンスポリン、フロモックス、メイアクトなど
  • マクロライド系:クラリス、ジスロマックなど
  • テトラサイクリン系:ミノマイシンなど
  • ナリジクス酸:ウイントマイロン

になります。これらの抗生物質を使用中はビオフェルミンRを併用する事で、腸内細菌のバランスを整える事が出来ますが、逆に言えばこれらの抗生物質以外であれば使用する事は出来ません。

 

3.ビオフェルミンRにはどのような効果があるのか

ビオフェルミンRは、どのような機序で整腸作用をもたらしているのでしょうか。

ビオフェルミンRは、耐性乳酸菌という生菌が主成分となっています。最近ではヨーグルトのCMで「乳酸菌」という名前を聞いたことがある方も多いでしょう。

乳酸菌は元々人間を含む動物の腸内にいる生菌です。腸内に住んでいる菌を腸内細菌と呼びますが、乳酸菌も腸内細菌であり腸内の環境を保つためにはたらく「善玉菌」となります。

乳酸菌の主なはたらきは、小腸~大腸において腸内にやってきた糖を分解するのが主なはたらきです。糖を分解することによって酸(乳酸・酢酸)が作られますが、これにより腸内のpHが適正に整えられ、有害菌の発育を抑えるはたらきがあります。

酢酸には殺菌作用があるため、これが腸内の悪い菌をやっつけてくれるという効果も期待できます。

更に、ビオフェルミンRに含まれる耐性乳酸菌は、抗生物質の使用下においても上記の作用が期待できます。

普通の乳酸菌は「菌」ですから、抗生物質(細菌をやっつける作用があるお薬)を使用すると、抗生物質によって殺されてしまいます。

本来は身体に害を来たしている有害菌をやっつける目的で抗生物質を投与しているのに、身体にとって必要な乳酸菌をも殺してしまうのです。

この被害を避けるために開発されたのがビオフェルミンRです。

ビオフェルミンRは主要な抗生物質に対して耐性(抵抗力)を持っています。そのため抗生物質とビオフェルミンRを併用すれば、有害菌はやっつけつつ、腸内細菌のバランスは崩さないという事が可能になります。

実際、抗生物質とビオフェルミンRを併用したところ、抗生物質投与下でも耐性乳酸菌は腸内で増殖する事が確認されています。それだけでなく、耐性乳酸菌は有害菌の増殖を抑える作用もある事が確認されています。

ちなみにある細菌が抗生物質に耐性を持っていると、その遺伝情報が「プラスミド」という細菌間を移動できる遺伝子によって他の細菌に伝わってしまうという事があります。乳酸菌が耐性を持っている事で、その遺伝情報が有害菌にも移行してしまい、有害菌も抗生物質が効かなくなるという事は生じないのでしょうか。

これは生じないと考えられています。

耐性乳酸菌の抗生物質に対する耐性はプラスミド性のものではなく、染色体性である事が確認されており、このため耐性乳酸菌の遺伝情報が有害菌に移行してしまう事はありません。

 

4.ビオフェルミンRの副作用

ビオフェルミンRにはどのような副作用があるのでしょうか。

ビオフェルミンRの主成分は、元々腸内に存在する乳酸菌になります。

抗生物質の服用によって腸内の乳酸菌がやっつけられてしまい、少なくなってしまった時、ビオフェルミンRを服薬することで少なくなった乳酸菌を外から補えます。

つまりビオフェルミンRの服薬は、元々腸内にいたものを補うだけです。そのためビオフェルミンRを服薬することによる副作用はほとんどないと考えられます。

適正に使用している限りでは、副作用はほぼ生じないと考えてよいでしょう。

実際、ビオフェルミンRの添付文書には次のように記載さrています。

本剤は安全性が高く、常用量をこえて長期投与しても副作用があらわれることは少ないと考えられる。

もし副作用が生じたとしても生じうる副作用としては、

・腹部膨満

などといった軽度のものであり、重篤な副作用が生じることはまずありません。

 

5.ビオフェルミンRの用法・用量と剤形

ビオフェルミンRは、

ビオフェルミンR散
ビオフェルミンR錠

の2剤形があります。

ビオフェルミンR1錠中(1g中)には、耐性乳酸菌が6.0mg含有されています。

菌が6.0gといってもいまひとつイメージが沸かないと思いますが、これは菌の数としては乳酸菌1,000,000(100万)~1,000,000,000(10億)個と言われています。

ちなみにビオフェルミンRの「R」は「Resistance(耐性)」という意味で「抗生物質に対する耐性がありますよ」という意味になります。

 

ビオフェルミンRの用法・用量は次のようになります。

通常、成人1日3g又は3錠を3回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

ビオフェルミンRの主成分である乳酸菌は、胃酸によって殺されてしまうことがあります。これでは服用する意味がありません。そのため、ビオフェルミンRはできる限り食後に服薬することが推奨されます。

食後だと、胃内に食事が残っているため胃内の酸性度が弱まり、乳酸菌が死滅しにくくなるためです。

 

6.ビオフェルミンRの作用時間

一般的な医薬品を服薬する場合、「どれくらいで効果が発揮されるのか」「どれくらい効果が持続するのか」ということは重要な情報となりますが、ビオフェルミンRは、その主成分が食品などにも含まれていることの多い乳酸菌であり、効果発現時間や作用時間を気にすることはあまりありません。

ヨーグルトを食べたとき、「どのくらいの時間が経てば整腸作用が発揮されるのだろう」と気にする方はほとんどいないでしょう。

そのため、作用時間や半減期などの詳しい試験はあまり行われていないようです。

臨床的な感覚としては、早い方だと半日後には効果は得られる方もいますが、しっかりした効果を得るには2~3日飲み続ける必要があると感じます。

 

7.ビオフェルミンRが向いている人は?

以上から考えて、ビオフェルミンRが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

ビオフェルミンRの特徴をおさらいすると、

・乳酸菌を含有し、整腸効果を発揮する
・抗生物質に耐性を持っている
・抗生物質によって腸内細菌が殺され、下痢や腹痛が生じるのを抑えるはたらきがある
・原則として抗生物質と併用して投与される
・大きな副作用がない

といったものがありました。

ビオフェルミンRの特徴は、抗生物質によって腸内細菌が殺されてしまい、下痢・便秘・腹痛などの症状が生じるのを防いでくれるという点です。

そのため、

  • 抗生物質で胃腸症状の副作用が出現しやすい方
  • 細菌性胃腸炎で抗生物質を投与されている方

に向いているお薬となります。

ビオフェルミンRは、抗生物質に耐性を持っているのが特徴となるため、逆に言えば抗生物質を使用していない時は服用してはいけません。

単独で服用する事で害があるわけではありませんが、抗生物質を服用していないのであればビオフェルミンRではなく、ビオフェルミンで良いからです。