リフレックス(一般名:ミルタザピン)は、抗うつ剤の1つです。

1974年に初めて合成され、世界的には1994年に初めて発売されました。日本では大分遅れて2009年に発売され、現在では主にうつ病の治療薬として用いられている他、不安障害などにも用いられています。

リフレックスは「NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ剤)」という種類に属する抗うつ剤になります。何だかとても難しい名前で、どんな効き方をするお薬なのか分かりにくいですね。

NaSSAは他の抗うつ剤とは異なるユニークな作用機序を持つため正しく理解して使えば、うつ病治療の心強い味方になります。そのためリフレックスを服用する患者さんも、この抗うつ剤の作用機序を理解する事はとても意味のある事です。

ここではリフレックスという抗うつ剤がどのような作用機序を持つのかを、一般の方でもなるべく分かるように紹介させていただきます。作用機序が分かれば、なぜリフレックスの抗うつ作用が強力なのか、なぜ眠気や体重増加をきたしやすいのかも分かります。

1.抗うつ剤を理解するカギである「神経伝達物質」とは?

リフレックスは一体、どのような効き方をする抗うつ剤なのでしょうか。

リフレックスの作用機序をかんたんに言ってしまうと、「神経間のノルアドレナリンとセロトニンを増やすお薬」になります。

この「セロトニン」や「ノルアドレナリン」は「神経伝達物質」と呼ばれる物質で、神経から神経へ情報を伝える役割を持ちます。

私たちの身体の中にはたくさんの種類の神経伝達物質があります。これらが適切に分泌される事で、膨大な情報は適切に伝達されていきます。これによって、私たちは日々様々な活動を行えているのです。

そしてセロトニンやノルアドレナリンは「モノアミン系」と呼ばれ、主に「感情」に関する情報を伝える神経伝達物質だと考えられています。

1960年代に「うつ病の患者さんの脳では、モノアミンの量が少なくなっている可能性がある」「これによって感情の情報がスムーズに伝わらなくなる事でうつ病が発症しているのではないか」という研究報告がなされました。

以降もこれを裏付ける研究結果が次々と報告されるようになり、「じゃあ神経のモノアミンを増やせばいいじゃないか」という考えから抗うつ剤は生まれたのです。そして、リフレックスもその1つです。

抗うつ剤はそれぞれ、異なった機序によってモノアミンを増やしますが、「モノアミンを増やす作用を持つ」という点ではどの抗うつ剤も同じです。

という事は抗うつ剤のはたらきを正しく理解するためには、神経が神経伝達物質を使って情報を伝える仕組みを理解する必要があります。これを理解できればそれぞれの抗うつ剤がどのように神経伝達物質を増やしているのかが分かってきます。ちょっと難しいですが、必ずみなさんの治療の役に立つ事ですので、簡単にここで学んでみましょう。

私たちの脳は無数の神経の集まって作られています。神経同士はそれぞれ複雑に結合してネットワークを形成しており、常に神経から神経に様々な情報が伝達されています。これによって私たちは様々な活動を行えているのです。

例えば「筋肉を動かせ」という意識的な情報から、「ホルモンを分泌しろ」「脳の覚醒レベルを上げろ」といった無意識で行われる情報もすべて、中枢である脳から神経を介して、様々な組織や臓器に伝達されていきます。

では神経はどのようにこの情報を伝達しているのでしょうか。

この情報の伝わり方は「電気信号」と「神経伝達物質」の2つがあります。より具体的に言うと、神経内は電気信号で情報が伝わり、神経間は神経伝達物質で情報が伝わります。

神経の情報の伝わり方

情報は神経の中は「電気信号」として伝達されます。神経細胞内にイオンが流入する事で細胞内外に電位差を発生させ、それを電気信号として情報は伝わっていくのです。

そして神経から次の神経に情報を伝わる時は、「神経伝達物質」が使われます。電気信号が神経の末端(神経終末)まで届くと、神経終末に溜め込まれている神経伝達物質が神経間に分泌されます。この放出された神経伝達物質を次の神経が受け取る事で情報は次の神経と伝わっていくのです。

神経伝達物質には様々な種類のものがあります。そのうち、抗うつ剤を学ぶために重要なのは「モノアミン系」と呼ばれる神経伝達物質です。

モノアミン系は情報の中でも主に感情に関する情報を伝える物質です。モノアミン系には、セロトニンやノルアドレナリンの他、ドーパミンなどもあります。

モノアミン系はどれも感情に関する情報を伝えますが、それぞれ伝える感情の種類が異なり、

  • セロトニンは落ち込みや不安といった感情に関わっている
  • ノルアドレナリンは意欲ややる気といった感情に関わっている
  • ドーパミンは楽しみや快楽という感情に関わっている

と推測されています。実際はここまで綺麗に役割が分かれているわけではありませんが、おおむねこのように考えてください。

これらモノアミン系の神経伝達物質が何らかの原因で減少してしまうと、落ち込んだり、やる気が出なくなったり、楽しめなくなったりしてしまうというわけです。

ただし、うつ病の発症はモノアミンの減少だけでは説明できない事も多く、モノアミン減少以外にも原因がある事は間違いありません。しかし今までの様々な研究結果から「少なくともモノアミンの減少は、うつ病発症の原因の1つである」という事は言えるため、基本的に抗うつ剤というものは、モノアミンを増やす作用を持ちます。

何らかの原因によって減ってしまったモノアミンを増やす事で、これらの不安定な感情を改善させる事を狙っているのが抗うつ剤なのです。

2.リフレックスの作用機序の概要

うつ病はモノアミンという感情に関する神経伝達物質の減少が一因です。そして抗うつ剤はこれを解決するために、モノアミンを増やす機序を持つお薬になります。

リフレックスも同様に、モノアミンを増やす作用を持ちます。

リフレックスはモノアミンの中でも特に、

  • セロトニン
  • ノルアドレナリン

を増やす作用に優れます。

また、

  • ドーパミン

もある程度増やしてくれます。

ではリフレックスはどのような機序でこれらのモノアミンを増やすのでしょうか。

リフレックスは、神経終末に溜め込まれている神経伝達物質を神経間に放出させる作用を持ちます。より具体的に言うと、神経の末端(神経終末)に存在するα(アドレナリン)2受容体という部位をリフレックスはブロックするのです。

神経終末に存在するα2受容体が刺激されると、神経間に分泌されるモノアミンの量が減る事が知られています。リフレックスはこのα2受容体にフタをしてしまい、α2受容体が刺激されないようにしてしまいます。すると神経終末から分泌されるモノアミンの量が減りにくくなります。これによって落ち込みや不安、意欲低下などといった抑うつ症状を改善させます。

これがリフレックスの主たる作用機序です。

そしてこれ以外にもリフレックスはいくつかの受容体をブロックする作用があり、これらも合わせて理解するとこのお薬をよりよく知る事ができます。

リフレックスは、

  • H(ヒスタミン)1受容体

を強力にブロックする作用もあります。

ヒスタミン1受容体は脳の覚醒や食欲の制御に関わっている受容体であるため、ここがブロックされてしまうと覚醒レベルが落ちて眠気が生じたり、食欲が抑制されにくくなり体重が増加する事があります。

これは不眠や食欲低下を認める方には良い作用となる一方で、日中の眠気や過食・体重増加といった副作用となってしまう事もあります。

またリフレックスは他の抗うつ剤で認められる事の多い、

  • α(アドレナリン)1受容体をブロックする作用
  • アセチルコリン受容体をブロックする作用

があまりない点も特徴です。

α1受容体がブロックされると認知機能(覚醒レベルや遂行機能・見当識など)が低下したり、性機能障害(勃起障害・射精障害など)といった症状が認められ、これは主に患者さんを困らせる副作用となります。

またアセチルコリン受容体がブロックされると抗コリン症状といって口喝(口の渇き)や便秘・尿の出にくさ・意識レベル低下などが生じます。これらも主に患者さんを困らせる副作用となってしまいます。

3.作用機序から見るリフレックスの利点

リフレックスは神経終末にあるα2受容体にフタをしてしまう事で、モノアミンを増やす作用を持ちました。モノアミンは気分に関係する神経伝達物質であるため、これらの量が増えると気分の改善が得られ、うつ病や不安障害などを改善させます。

リフレックスは優れた抗うつ剤ではありますが、どのようなお薬も長所もあれば短所もあります。

ではリフレックスはどのような長所・短所があるのでしょうか。作用機序から考えられるリフレックスの長所について、他の代表的な抗うつ剤と比較しながら見ていきましょう。

Ⅰ.抗うつ作用が強い

リフレックスの最大の長所は「抗うつ作用が強い」という点です。これは作用機序から考えても、実際の臨床での経験から見ても感じる事です。

なぜリフレックスの抗うつ作用が強いのか、その理由は色々あるかと思いますが、その1つは「モノアミンをダイレクトに増やすため」だと考えられます。

前述したようにリフレックスは神経終末にあるα2受容体をブロックする事で、「モノアミンの分泌を促す」という作用があります。

一方で他の抗うつ剤(SSRIやSNRI、三環系抗うつ剤など)のほとんどは、「神経間に分泌されたモノアミンが長くそこにとどまるようにする」という作用を持ちます。神経間に分泌されたモノアミンは、一定の時間が経つと再び神経内に「再取込み」されてしまいます。SSRI・SNRI・三環系抗うつ剤などの主要な抗うつ剤は、この「再取込み」をブロックする事で、神経間に長くモノアミンが留まるようにするのです。

  • リフレックスは神経間にモノアミンを多く分泌させる
  • 他の抗うつ剤は神経間に分泌されたモノアミンが再取込みされないようにする

という違いがあるのです。

これらはどちらが良い悪いという事はありませんが、ダイレクトにモノアミンの量を増やすリフレックスの方がよりしっかりとモノアミンが増える可能性が高いと考えられます。そもそもモノアミンが分泌されていなければ、その再取込みをいくらブロックしてもモノアミンの量は増えないからです。

また、2009年に「たくさんある抗うつ剤の、それぞれの強さをランキング付けしてみよう」という目的で行われたMANGA Studyという研究でも、リフレックスは主たるSSRI・SNRIなどと比較して、抗うつ作用が一番強い抗うつ剤であると位置づけられています。

実際の臨床現場での使用経験としても、リフレックスは抗うつ作用の強い、頼れる抗うつ剤であると言えます。

Ⅱ.他の抗うつ剤と違う効き方をする

前述の通りリフレックスをはじめとしたNaSSAは、他の主たる抗うつ剤と異なる作用機序を持ちます。

作用機序が異なるというのは、

  • 他の抗うつ剤が効かない症例でも、効果を認める可能性がある
  • 他の抗うつ剤と併用しやすい

という利点もあります。

リフレックスは神経間に分泌されるモノアミンの量を増やします。対して主たる抗うつ剤であるSSRI・SNRI・三環系抗うつ剤などは神経間に分泌されたモノアミンが再取込みされないようにします。

例えばSSRIやSNRIを服用していて、その時点でほとんどのモノアミンの再取込みがブロックされている状態であれば、そこに比較的似た作用機序を持つ三環系抗うつ剤を更に上乗せして使って、更にモノアミンの再取込みをブロックしても、あまり効果は期待できないでしょう。

しかし再取込みがブロックされている状態で、モノアミンの分泌量を増やすリフレックスを投与すれば、効果を認める可能性があります。作用機序が異なるという事は、異なる効き方をするため、他の抗うつ剤が無効であった際に効果を期待しやすいという事でもあるのです。

また、1剤の抗うつ剤で十分な効果が得られない場合は2剤目を併用する事もありますが、この時SSRIやSNRIを更に増やして極限までモノアミンの再取込みを阻害するよりも、SSRI・SNRIで再取込みを阻害しつつリフレックスでモノアミンの分泌も増やした方が効率的にモノアミンを増やせます。

他の抗うつ剤と効き方が異なるという事は、併用する事で効率的に治療が行えるという利点もあるのです。

Ⅲ.効果発現が速い

リフレックスは効果発現が速いというメリットがあります。

一般的に抗うつ剤の効果が現れるまでの期間というのは「服用して2週間で効果を感じ始め、しっかりと効果を確認するには1か月かかる」と言われています。

比較的新しい抗うつ剤であるSSRIやSNRIでは多少は効果発現が速くなっているものの、それでもやはり最低でも2週間程度は様子をみる必要があります。

対してリフレックスは服用してから1週間ほどで効果を感じ始める例が少なくありません。

なぜリフレックスでは作用発現が早いのでしょうか。これも恐らく、モノアミンの分泌を促す、というダイレクトな作用を持つため、早く効果が得られるのだと考えられています。その根拠の1つとして、リフレックスは四環系抗うつ剤という抗うつ剤から改良されて開発されたお薬なのですが、この四環系抗うつ剤もリフレックスと同じようにダイレクトにモノアミンの分泌を促し、はやり作用発現が早いという特徴があります。

抗うつ作用が早く発現するというのは、毎日つらい症状で苦しんでいる患者さんにとっては非常にありがたい事で、これはリフレックスの利点の1つと言ってもいいでしょう。

Ⅳ.不眠・食欲低下に効果がある

リフレックスはモノアミンを増やす作用以外にも、H(ヒスタミン)1受容体をブロックする作用が強いという特徴があります。

ヒスタミンは私たちの身体の中で様々な役割を持つ神経伝達物質ですが、代表的な作用に、

  • 脳の覚醒レベルを上げる
  • 食欲を抑制する

というものがあります。

リフレックスはヒスタミン受容体にフタをしてしまい、ヒスタミンのはたらきをブロックしてしまうため、これらの作用が得られにくくなり、眠気や食欲亢進が生じます。

つまりうつ病や不安障害があって、

  • 不眠でも困っている
  • 食欲が低下して困っている

という症状がある患者さんの場合、リフレックスは1剤で複数の効果が得られる抗うつ剤になるという事です。一方でこれらの作用は、「眠気がつらい」「食欲が制御できずに体重が増えてしまって困っている」といった副作用にもなりえますので注意も必要です。

Ⅴ.性機能障害が生じにくい

抗うつ剤で困る副作用の1つに「性機能障害」があります。

具体的には、

  • 性欲低下
  • 射精障害
  • 勃起障害

といったものです。

これらの症状は相談しずらいものですので、困っていながらも主治医に相談できない方も少なくありません。

性機能障害は特にSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)で生じやすく、SSRIである「ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)」「パキシル(一般名:パロキセチン)」ではかなり高い頻度で生じる事が知られています。

SSRIは主にセロトニンを増やす作用に優れる抗うつ剤で、SSRIで性機能障害が多い事から分かるように、性機能障害の発現にはセロトニンが関係しています。より具体的に見ると分泌されたセロトニンがセロトニン2受容体を刺激してしまう事が原因だと考えられています。

リフレックスはセロトニン2受容体を刺激するどころか、むしろブロックする作用を持ちます。そのため性機能障害が生じにくいのです。性機能障害が生じにくいだけでなく、機序的に見ればSSRIで生じた性機能障害を軽減させる作用も期待できます。

また性機能障害にはα1受容体も関係していると考えられています。リフレックスはα1受容体にもほとんど作用しないため、これも性機能障害を生じさせにくい一因となっています。

Ⅵ.抗コリン症状や認知機能障害・消化器症状が生じにくい

SSRI・SNRI・三環系抗うつ剤といった他の抗うつ剤ではしばしば、

  • アセチルコリン受容体がブロックされる事による抗コリン症状
  • アセチルコリン受容体やα1受容体がブロックされる事による認知機能障害
  • セロトニン3受容体が刺激される事による消化器症状(吐き気・便秘など)

などが生じる事があります。

リフレックスはこれらの受容体にほとんど作用しないため、これらの副作用が生じにくいという利点があります。

抗コリン症状というのはその名の通り、アセチルコリン受容体がブロックされると生じる諸症状の事で、

  • 口喝(口の渇き)
  • 便秘・吐き気
  • 尿が出にくくなる
  • ボーッとする(意識レベルの低下)
  • 瞳孔が開いて視界がぼやけてしまう(霧視)
  • 動悸・不整脈

などがあります。これらは主に患者さんを苦しめる副作用になります。

抗コリン症状は古い抗うつ剤である三環系抗うつ剤で特に多く問題となっていました。SSRI・SNRIでは幾分少なくなりましたが、全く生じないわけではありません。

対してリフレックスは抗コリン症状はほとんど生じません。これはリフレックスの利点の1つと言ってもいいでしょう。

またα1受容体は認知機能を低下させる事が報告されています。また抗コリン症状も認知機能を低下させます。またそもそもうつ病という疾患が認知機能を低下させる症状が生じえます。

認知機能というのは情報処理能力、注意力・記憶力・集中力・理解力や計画能力・問題解決能力などの高次能力(知的能力)の事です。

ここに障害が生じると、いわゆる「ボーッとした状態」「頭が働かない状態」となり、これは認知機能障害と呼ばれます。認知機能障害は仕事や家事・勉強といった重要な作業能力に支障をきたし、本人の将来に不利益をもたらします。

リフレックスは抗コリン症状が生じない他、α1受容体をブロックする作用もほとんどないため、認知機能を障害させる事がありません。むしろ認知機能を改善させる可能性が報告されているほどで、統合失調症など認知機能に障害が生じる疾患に対して認知機能の改善させる可能性も指摘されています。

また、リフレックスはセロトニン3受容体をブロックする作用があります。対してSSRIやSNRIはセロトニン3受容体を刺激する作用があり、これによって消化管の動きが低下して吐き気や便秘が生じる事があります。リフレックスはこれらと反対にセロトニン3受容体をブロックするため、消化器症状が出現しにくく、むしろ機序的に見ればSSRIやSNRIで生じる消化器症状を軽減させる作用も期待できます。

4.作用機序からみるリフレックスの欠点

リフレックスは優れた抗うつ剤の1つですが、欠点がないわけではありません。

ここでは作用機序から見るリフレックスの欠点について紹介します。

Ⅰ.初期の眠気に注意

リフレックスで最も注意すべき副作用は眠気です。

リフレックスは「眠くなる抗うつ剤」であり、開発段階でも「これは睡眠薬にした方がいいのではないか」という意見も出たほどだと聞いています。

リフレックスは服用すると眠くなりますので、基本的に夕食後や就寝前など「寝る前」に服用する事が推奨されています。

またこの眠気は初期にとりわけ強く出るため、リフレックスを開始する際は出来るだけ少量から始めた方が良いでしょう。リフレックスは添付文書を見ると1日1回1錠(15mg)から開始するようにと書かれていますが、よほど不眠に困っている人や日中に眠気が出ても困らない人を除けば、0.5錠くらいから始めるのが無難でしょう。中には0.25錠くらいから始める事もあるくらいです。

リフレックスの眠気で患者さんに知っておいていただきたい事は、一般的な睡眠薬と比較してリフレックスの眠気は「慣れてくる」事が多い事です。

これはリフレックスの眠気が主にヒスタミン受容体のブロック(抗ヒスタミン作用)によって生じるためです。抗ヒスタミン作用は「耐性(いわゆる「慣れ」)」が生じやすいため、多少の眠気であれば少し様子を見て頂くと、だんだんと慣れてくる事があるのです。

リフレックスを初めて服用してひどい眠気に襲われると、「こんな怖いお薬、もう飲めない!」と1日で服用をやめてしまう方もいます。しかし、この眠気は続かない事もありますので少し待って欲しいのです。もちろん主治医と相談しながらにはなりますが、なるべく少量から初めて、少し様子をみていけばこの眠気は慣れてくる事があります。

眠気は特に服用してから最初の3日間が強く出て、それ以降は少しずつ落ち着いていく事が多いため、耐えきれないほどの眠気でなければ少し様子をみても良いでしょう。

Ⅱ.体重増加が不評

リフレックスの抗ヒスタミン作用(ヒスタミン1受容体をブロックする作用)は、食欲を増進させます。また抗うつ剤は心身をリラックスさせる作用があるため、代謝を落とし、これも体重増加の原因になります。

リフレックスに限らず抗うつ剤は体重が増えるものが少なくありません。しかしリフレックスはその中でも体重増加が特に生じやすいお薬です。

リフレックスによる体重はある程度服用を続けると止まり、以降はどんどんと増加する事はない、という調査結果もあります。しかし体重増加は患者さんによっては時に大きな苦痛となります。

特に若い方や女性での体重増加は軽視できるものではなく、体重が増えた事によってより落ち込んだり情緒不安定になってしまう事もあります。この副作用には注意を払い、患者さんも服用前にこの副作用が生じうる事はしっかりと知っておく必要があります。

5.上級者向けリフレックスの作用機序

最後にリフレックスの作用機序について、より専門的に紹介します。

専門的に詳しく紹介するとなると、どうしても分かりにくくなってしまいますが、「リフレックスというお薬についてより詳しく知りたい」という方は読んでみてください。

リフレックスの基本的な作用機序は、神経終末にあるα2受容体をブロックする事でモノアミンの分泌を促すというものでした。モノアミンは感情に関係する神経伝達物質であるため、これが増えれば気分が改善するという事です。

しかし実は、より正確にいうとα2受容体をブロックすると分泌が促されるのは、主に「ノルアドレナリン」なのです。セロトニンとドーパミンはそれによって間接的には増えますが、α2受容体のブロックによって直接増えるわけではありません。

NaSSAの正式名称を見ると、「ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ剤」となっており、ノルアドレナリンに対しては「作動性」(ノルアドレナリン神経を作動させる)となっているのに対して、セロトニンは「特異的作動性」(局所的に作動させる)となっています。

この点についても、より詳しく紹介します。

Ⅰ.リフレックスがノルアドレナリンを増やす機序

リフレックスはα2受容体をブロックする事でモノアミンの分泌を促す作用を持ちますが、これによって直接的に分泌が促されるのは「ノルアドレナリン」になります。

より正確に説明すると、リフレックスはノルアドレナリン神経(ノルアドレナリンを分泌する神経)の神経終末に存在するα2受容体をブロックします。これによってノルアドレナリンの分泌が増えます。

ノルアドレナリンは感情の中でも、

  • 意欲
  • やる気

といった活動性に関わる気分に影響するため、これによりうつ症状の中でも活動性の改善が得られます。

Ⅱ.リフレックスがセロトニンを増やす機序

リフレックスはセロトニン神経にも作用しますが、その作用の仕方はノルアドレナリンとはやや異なります。

具体的にいうと、リフレックスは主に次の3つの機序によってセロトニンを増やします。。

まず脳の「脳幹青斑核」という部位にはノルアドレナリン神経がたくさんある事が知られていますが、青斑核のノルアドレナリン神経の一部は、セロトニン神経(セロトニンを分泌する神経)とも結合しています。

リフレックスがノルアドレナリン神経におけるノルアドレナリンの分泌を促すと、結合しているセロトニン神経との神経間にもノルアドレナリンは分泌されます。セロトニン神経には「α(アドレナリン)1受容体」という部位があり、分泌されたノルアドレナリンがこのα1受容体に結合すると、セロトニン神経が活性化します。これによって間接的にですがセロトニンの分泌も増えるのです。

そしてセロトニン神経の神経終末には「α2ヘテロ受容体」という受容体があり、ノルアドレナリン神経の神経終末にあるα2受容体と同様に神経伝達物質の分泌を抑えるはたらきがあります。、リフレックスはこのα2ヘテロ受容体もブロックするため、これもセロトニンの分泌を促します。

更にリフレックスは、分泌されたセロトニンがくっつく部位である「セロトニン受容体」のうち、

  • セロトニン2A受容体
  • セロトニン2C受容体
  • セロトニン3受容体

をブロックします。

セロトニン受容体にも様々なものがあり、それぞれセロトニンがくっつく事で得られる作用は異なります。その作用はとても複雑なのですがざっくり言うと、

  • セロトニン1A受容体:不安や抑うつを改善
  • セロトニン2A受容体:覚醒・深い眠りの抑制
  • セロトニン2C受容体:興奮・不安増強
  • セロトニン3受容体:吐き気など消化器症状に関与

などが指摘されています。

リフレックスはセロトニン2A受容体、セロトニン2C受容体、セロトニン3受容体をブロックしますので、結果として分泌されたセロトニンは、セロトニン1A受容体に特異的に結合しやすくなります。これによって効率よく不安や抑うつを改善させてくれるのです。これがNaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ剤)の名称である、「特異的セロトニン作動性」の意味です。

またリフレックスの鎮静作用・催眠作用はセロトニン2受容体をブロックする事も一部関与している事がここでも分かりますし、リフレックスで他の抗うつ剤で多い吐き気が生じにくいのはセロトニン3受容体をブロックする事も関与している事が分かります。

Ⅲ.リフレックスがドーパミンを増やす機序

リフレックスは前頭前野という部位の脳のドーパミンを増やす作用が報告されています。これは楽しむ力の回復に関わってきます。

リフレックスのドーパミンへの作用はノルアドレナリンやセロトニンと比べると弱い印象があり、そのためあまり取り上げられないのですが、この作用がないわけではありません。

リフレックスがドーパミンを増やす機序については、

  • α2受容体のブロック
  • セロトニン2C受容体のブロック
  • セロトニン1A受容体の刺激

が関係していると考えられています。

実はノルアドレナリンのところで紹介した、α2受容体はドパミン神経にも存在しています。ノルアドレナリンもドーパミンもどちらも「カテコールアミン」という興奮性の物質であり、両者は共通しているところも多いのです。

またリフレックスの持つ、セロトニン1A受容体に特異的に結合する作用もドーパミン量を増やす作用をもたらす事が報告されています。またリフレックスの持つ、セロトニン2C受容体をブロックする作用も、間接的にですかドーパミンの分泌を促す事が報告されています。

これらの機序により、リフレックスは脳(主に前頭前野)のドーパミンも増やしてくれるのです。

Ⅳ.その他の受容体への作用

その他のリフレックスの作用として知っておいていただきたいのは、前にも書いた通り、

  • ヒスタミン1受容体への強力なブロック作用
  • アセチルコリン受容体やα(アドレナリン)1受容体への作用がほとんどない

という点です。

ヒスタミン受容体のブロックは眠気と体重増加を引き起こします。抗ヒスタミン作用の強いリフレックスは眠気と体重増加に注意が必要になります。しかし一方で不眠や食欲減退の患者さんには役立つ作用ともなりえるため、ここは上手に使っていく必要があります。

アセチルコリン受容体のブロックは抗コリン症状(口喝、便秘、尿の出にくさなど)を引き多し、α1受容体のブロックは性機能障害や認知機能障害を引き起こします。

リフレックスはこれらの受容体にほとんど作用しないため、他の抗うつ剤に認められやすいこれらの副作用が生じにくいというのも利点の1つです。