アストマリ錠・アストマリ細粒(一般名:デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物)は1955年から発売されている「メジコン」というお薬のジェネリック医薬品になります。いわゆる「咳止め」で、専門的には「鎮咳薬(ちんがいやく)」と呼ばれます。
先発品のメジコンはかなり古いお薬にはなりますが、咳が出る疾患は非常に多いため、現在でも広く処方されているお薬の1つになります。
アストマリはどのような効果・特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではアストマリの効能・特徴や副作用などを紹介させて頂きます。
1.アストマリの特徴
まずはアストマリの特徴をざっくりと紹介します。
アストマリは、咳を抑える作用を持つお薬になります。まずまずしっかりした効果と長い実績がある頼れるお薬になります。
咳止め(鎮咳薬)は大きく分けると、「麻薬性」と「非麻薬性」があります。両者の違いをかんたんに言うと、
- 麻薬性は、効果はしっかりしているけども耐性や依存性があり、便秘などの副作用も起こりやすい
- 非麻薬性は、効果は麻薬性には劣るが耐性や依存性はなく、副作用も少ない
と言えます。
そのうちアストマリは非麻薬性に属し、安全性の高い咳止めになります。しかし麻薬性である「コデイン」と同等の鎮咳作用があるという試験結果が出ており、効果は十分に期待できます。また先発品のメジコンは1955年から使われているという非常に長い実績があるため、安心して使えるお薬です。
ちなみに耐性というのは、お薬を連用していると身体がお薬に慣れてしまって徐々に効きが悪くなってくる事です。また依存性というのは、そのお薬に心身が頼り切ってしまう事でお薬を止められなくなってしまう事を言います。
またジェネリック医薬品でありアストマリは、先発品のメジコンと比べると薬価が安いのもメリットの1つです。
以上からアストマリの特徴として次のような点が挙げられます。
【アストマリの特徴】
・咳を抑える作用がある
・非麻薬性であり、耐性や依存性がない
・副作用は少なく安全性が高い
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
2.アストマリはどんな疾患に用いるのか
アストマリはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
1.下記疾患に伴う咳嗽
感冒、急性気管支炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺炎、肺結核、上気道炎(咽喉頭炎、鼻カタル)2.気管支造影術及び気管支鏡検査時の咳嗽
難しい病名がたくさん並んでいますが、要するに「咳を生じる疾患」に対しての咳止めとして使える、という認識で良いと思います。
臨床でよく用いられるのが、風邪(感冒)や気管支炎、肺炎などに伴う咳ですね。
ちなみに咳が出たら全てアストマリを飲まないといけないというわけではありません。基本的に咳というのは「痰を除去する」「ばい菌を体外に追い出す」ために必要な生理反応であり、止めない方がいいものなのです。
風邪や肺炎で気管に菌やウイルスがいるのに、お薬で咳を止めてしまったら、菌やウイルスが体外に排出されず、病気の治りも悪くなってしまいます。
咳を止める必要があるのは、
- 咳があまりにひどくて、かえって気管を傷付けてしまっている場合
- 咳があまりにひどくて、夜眠れない場合
など、咳によって菌やウイルス・過剰な痰を排出するというメリットよりも、咳のデメリットが上回っている場合に限ります。
3.アストマリにはどのような作用があるのか
咳止め(鎮咳薬)に分類されてるアストマリですが、どのような機序で咳を抑えるのでしょうか。
アストマリには次のような作用があると考えられています。
Ⅰ.咳中枢を抑制する
私たちが咳をするのは、脳の「延髄」と呼ばれる部位にある咳中枢が深く関わっています。
本来、咳というのは気管に入ってきた異物を排出するという生体の防御システムです。
咽頭や気管に異物が入りこむと、その信号は咳中枢に送られます。信号がある閾値以上に達すると、咳中枢は「咳をして異物を排出する必要がある」と判断し、呼吸筋や横隔膜などに信号を送り、「咳」をするように指示するのです。
私たちの身体はこのような咳中枢のはたらきによって、異物を排出することが出来るのです。
アストマリは、延髄の咳中枢に直接作用することによって「咳をしなさい」という信号を送りにくくさせ、咳反射を起こしにくくさせます。これによって咳が発生しにくくなるのです。
4.アストマリの副作用
アストマリにはどんな副作用があるのでしょうか。
アストマリはジェネリック医薬品であるため副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「メジコン」においては副作用発生率は2.85%と報告されており、アストマリも同程度だと思われます。
生じうる副作用としては、
- 悪心・吐き気
- めまい
- 食欲不振
- 吐き気
- 胃部不快感
- 下痢・軟便
- じんましん、発疹
- 眠気
などの報告があります。
ちなみに麻薬性の鎮咳薬などでは、
・耐性
・依存性
などの副作用が生じますが、アストマリにおいてはこれらの副作用は認めません。
極めて稀ですが、重篤な副作用としては、
- 呼吸抑制
- ショック
- アナフィラキシー様症状
が現れることがあるとされています。
またアストマリの飲み合わせの注意点として「MAO阻害薬」と併用(一緒に服用)することは禁忌(絶対ダメ)となっています。
その理由は併用によって痙攣、反射亢進、異常高熱、昏睡などの重篤な症状が出現したという報告があるからです。
MAO阻害薬は日本では主にパーキンソン病に用いられることのあるお薬です。商品名としては「エフピー」があります。
一般的に処方されるお薬ではありませんが、アストマリを服用する方はこのようなお薬とは一緒に服用しないようにしましょう。
5.アストマリの用法・用量と剤形
アストマリは
アストマリ錠 15mg
アストマリ散 10%
の2剤型が発売されています。
アストマリの使い方は、
通常、成人には1回15~30mgを1日1~4回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
と書かれています。
服薬回数は1日1~4回とかなり幅のある記載になっていますが、これはどの程度咳を抑えたいのかで主治医と服薬回数を決めると良いでしょう。
例えば1日を通して咳を抑えたいのであれば1日3回や4回に分けた服用回数が良いでしょう。
しかし特定の時間だけの咳を抑えたいのであれば、主治医と相談の上で、1日1回投与でも良いでしょう。「夜寝る時だけ咳を抑えたい」という事であれば1日1回就寝前投与としても良いわけです。
6.アストマリ錠が向いている人は?
以上から考えて、アストマリ錠が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
アストマリ錠の特徴をおさらいすると、
・咳を抑える作用がある
・非麻薬性であり、耐性や依存性もがない
・副作用は少なく安全性が高い
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
などがありました。
咳を抑える作用は強力というほどではありませんが、ある程度の力は有します。麻薬性の鎮咳薬である「コデイン」と同等の鎮咳作用があるという結果が出ており、臨床的にも十分頼れるお薬です。また非麻薬性であり、重篤な副作用は少ない事が利点です。
ここから、
- 軽度~中等度の咳症状を認める方
に向いているお薬だと言えるでしょう。
またアストマリはジェネリック医薬品であるため、先発品のメジコンよりも薬価が安いのもメリットです。咳止めは元々薬価が安いため、ジェネリックになっても実際はそこまで体感的に値段が違うわけではありませんが、一応安くはなっています。
鎮咳薬を使う時は、まずはアストマリなどの非麻薬性の鎮咳薬から開始し、それでも咳が抑えられない時は麻薬性鎮咳薬などのより強力な鎮咳薬を試すのが一般的です。
7.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?
アストマリは「メジコン」というお薬のジェネリック医薬品になります。
ジェネリックは薬価も安く、剤型も工夫されているものが多く患者さんにとってメリットが多いように見えます。
しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。
ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。
結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。
ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。
発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、
ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。
しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば飲み心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。
これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。
では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。
先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。
しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。
先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。
つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。