ビオフェルミン錠(一般名:ビフィズス菌)は2004年から発売されている整腸剤です。「ラックビー」という整腸剤の後発品(ジェネリック医薬品)に該当します。
「お薬」とは言っても化学的な物質ではなく、その主成分は「ビフィズス菌」という腸内細菌になります。元々体内に存在する菌を服用するわけですから、大きな副作用はありません。安全に胃腸の調子を整えてくれるお薬になります。
整腸剤にもいくつかの種類があります。その中でビオフェルミンはどんな特徴のある整腸剤で、どんな患者さんに向いているのでしょうか。ビオフェルミンの効果や副作用についてみていきましょう。
1.ビオフェルミンの特徴
まずはビオフェルミンの特徴についてみてみましょう。
ビオフェルミンは、腸内細菌のバランスを整える働きがあります。具体的には栄養を適切に吸収できる環境を整えたり、有害菌の増殖を抑えたりするはたらきを持ちます。
ビオフェルミンは、ビフィズス菌という乳酸菌の1種が主成分となっている整腸剤です。ビフィズス菌は私たちの腸内に元々存在している菌であり、腸内環境を整えるために役立ちます。
そのため、なんらかの原因(腸炎や下痢など)で腸内のビフィズス菌が少なくなってしまった場合、ビオフェルミンを服薬するとビフィズス菌を補えるため、症状の改善が期待できます。
胃腸の調子が悪い場合というと、下痢や便秘、腹痛などが挙げられますが、整腸剤は腸内のバランスを整えることでどちらの状態に対しても幅広く効果を発揮します。よく「整腸剤は下痢と便秘のどちらに効くのですか?」と患者さんから質問を頂きますが、腸内細菌のバランスの乱れが原因なのであればどちらにも効くのが整腸剤です。
ビフィズス菌というのは、一般食品にも含まれている自然な菌になります。ビオフェルミンは医薬品ではありますが、化学的な物質ではなくビフィズス菌が主成分であるため、大きな副作用が生じることはまずありません。
また近年の研究では、ビフィズス菌に抗アレルギー作用や炎症を抑える作用があることも報告されており、服薬することでこれらの効果も期待できます。
ビオフェルミンは一応はジェネリック医薬品に該当しますが、先発品と比べて特別に薬価が安いわけでもなく、臨床上の感覚としてはジェネリック医薬品としては扱われていません。
以上から、ビオフェルミンの特徴として次のようなことが挙げられます。
【ビオフェルミンの特徴】
・乳酸菌の一種であるビフィズス菌を含有し、整腸効果を発揮する
・大きな副作用がない
・近年、アレルギーを抑える作用も報告されている
・炎症を抑える作用も報告されている
2.ビオフェルミンはどんな疾患に用いるのか
ビオフェルミンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。ビオフェルミンの添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
腸内細菌叢の異常による諸症状の改善
ビオフェルミンは整腸剤であり、腸内細菌の1つである「ビフィズス菌」を補うはたらきがあります。ビフィズス菌はいわゆる「善玉菌」であり、腸内環境を適正に整えてくれます。
そのため、ビオフェルミンは腸内細菌のバランス異常で生じる症状に対して効果を発揮します。この添付文書の記載だと、具体的にどんな時に使うお薬なのかが分かりにくいのですが、具体的には、
- 腸内細菌の異常で生じた下痢
- 腸内細菌の異常で生じた便秘
- 腸内細菌の異常で生じた腹痛
などに用います。
ビオフェルミンはジェネリック医薬品であるため、有効率に対する詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「ラックビー」においては、
- 下痢に対する有効率は乳幼児で86.8%、成人で81.0%
- 便秘に対する有効率は乳幼児で77.3%、成人で79.2%
と報告されており、ビオフェルミンもおおよそ同程度の有効率であると考えられます。
3.ビオフェルミンにはどのような効果があるのか
ビオフェルミンは、どのような機序で整腸作用をもたらしているのでしょうか。
ビオフェルミンは、ビフィズス菌という生菌が主成分となっています。最近ではヨーグルトなどにもビフィズス菌が含まれているものがあるため、「ビフィズス菌」という名前を聞いたことがあるという方も多いでしょう。
ビフィズス菌は元々人間を含む動物の腸内にいる生菌で、乳酸菌の1種になります。腸内に住んでいる菌を腸内細菌と呼びますが、ビフィズス菌も腸内細菌であり腸内の環境を保つためにはたらいてくれています。
昔から母乳栄養の赤ちゃんの方が人工栄養の赤ちゃんよりも死亡率が低く、感染性の腸炎などにもかかりにくい事が経験的に知られていました。そこで母乳栄養児の便を調べたところ、ビフィズス菌が多く含まれていることが分かりました。
ここから、このビフィズス菌が腸内環境を整えてくれ、これにより健康を促進している事が考えられ、ビフィズス菌が注目されるようになりました。
ビフィズス菌の主なはたらきは、小腸下部・大腸において腸内にやってきた糖を分解するのが主なはたらきです。糖を分解することによって酸(乳酸・酢酸)が作られますが、これにより腸内のpHが適正に整えられ、有害菌の発育を抑えるはたらきがあります。
酢酸には殺菌作用があるため、これが腸内の悪い菌をやっつけてくれるという効果も期待できます。
また近年の研究では、ビオフェルミンは抗アレルギー作用を有し、花粉症やアトピーなどの改善にも役立つ事が報告されたり、感染染性腸炎などの炎症を抑える作用があることも明らかになってきています。
ビオフェルミンはこれらの機序により、腸管のバランスを整え、整腸作用を発揮すると考えられています。
ビオフェルミン中に含まれるビフィズス菌は人の腸内に定着しやすいタイプであり、効率的に腸内に留まって腸内環境調整や有害菌の抑制といった効果を発揮してくれます。
4.ビオフェルミンの副作用
ビオフェルミンにはどのような副作用があるのでしょうか。
ビオフェルミンの主成分は、元々腸内に存在するビフィズス菌になります。
腸内に異常が生じて、腸内のビフィズス菌が少なくなってしまった時、ビオフェルミンを服薬することで、少なくなったビフィズス菌を外から補えます。
つまりビオフェルミンの服薬は、元々腸内にいたものを補うだけです。そのためビオフェルミンを服薬することによる副作用はほとんどないと考えられます。
ビオフェルミンはジェネリック医薬品であるため、副作用に対しての詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「ラックビー」においては副作用の発現頻度は0.3%と報告されており、ビオフェルミンも同程度だと考えられます。
生じうる副作用としては、
・腹部膨満
などであり、重篤な副作用が生じることはまずありません。
5.ビオフェルミンの用法・用量と剤形
ビオフェルミンは、
ビオフェルミン錠(1錠中にビフィズス菌を12mg含有)
の1剤形のみがあります。
ビオフェルミン1錠中には、ビフィズス菌が12mg含有されています。ちなみに先発品の「ラックビー」は1錠中にビフィズス菌が10mg含有されており、実は含有量がちょっとだけ異なります。
ビフィズス菌12mgといってもいまひとつイメージが沸かないと思いますが、これは菌の数としては乳酸菌1,000,000(100万)~1,000,000,000(10億)個という量になります。
ちなみにビオフェルミンには「ビオフェルミンR」というお薬もあります。このRは「Resistance(耐性)」という意味で「抗生物質に対する耐性がありますよ」という意味になります。
身体の中に細菌が入ってしまった場合、抗生物質を服用することがあります。抗生物質は菌をやっつけるのが作用ですから、抗生物質とビオフェルミンを一緒に飲んでしまうと、抗生物質によってビフィズス菌がやっつけられてしまいます。これではビオフェルミンを投与した意味がありません。
そこで役立つのがビオフェルミンRです。ビオフェルミンRは抗生物質に対して耐性を持ったビフィズス菌であるため、抗生物質と一緒に投与しても抗生物質にやっつけられることがありません。
感染性胃腸炎などで、抗生物質と整腸剤を一緒に服用したい場合に「R」製剤は役立ちます。
ビオフェルミンの用法・用量は次のようになります。
-
通常成人1日3~6錠を3回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
ビオフェルミンの主成分であるビフィズス菌は、胃酸によって殺されてしまうことがあります。これでは服用する意味がありません。そのため、ビオフェルミンはできる限り食後に服薬することが推奨されます。
食後だと、胃内に食事が残っているため胃内の酸性度が弱まり、ビフィズス菌が死滅しにくくなるためです。
6.ビオフェルミンの作用時間
一般的な医薬品を服薬する場合、「どれくらいで効果が発揮されるのか」「どれくらい効果が持続するのか」ということは重要な情報となりますが、ビオフェルミンは、その主成分が食品などにも含まれていることの多いビフィズス菌であり、効果発現時間や作用時間を気にすることはあまりありません。
ヨーグルトを食べたとき、「どのくらいの時間が経てば整腸作用が発揮されるのだろう」と気にする方はほとんどいないでしょう。
そのため、作用時間や半減期などの詳しい試験はあまり行われていないようです。
臨床的な感覚としては、早い方だと半日後には効果は得られる方もいますが、しっかりした効果を得るには2~3日飲み続ける必要があると感じます。
7.ビオフェルミンが向いている人は?
以上から考えて、ビオフェルミンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ビオフェルミンの特徴をおさらいすると、
・乳酸菌の一種であるビフィズス菌を含有し、整腸効果を発揮する
・大きな副作用がない
・近年、アレルギーを抑える作用も報告されている
・炎症を抑える作用も報告されている
といったものがありました。
大きな副作用なく穏やかに整腸作用を発揮してくれるビオフェルミンは、腸内細菌の異常(特にビフィズス菌の減少)によって生じている腹部症状に対しては、最初に用いるお薬として適切だと考えられます。
ただし、抗生物質とビオフェルミンを併用する時は注意してください。
抗生物質とビオフェルミンを併用してしまうと、抗生物質は菌をやっつけるのがはたらきですから、ビオフェルミンの主成分であるビフィズス菌もやっつけられてしまい、整腸作用を発揮できなくなってしまいます。
抗生物質と併用する場合は、ビオフェルミンではなく「ビオフェルミンR」を使用するようにしましょう。