ビオフェルミン配合散(一般名:ラクトミン・糖化菌)は1918年から発売されている整腸剤です。
「お薬」とは言っても化学的な物質ではなく、その主成分は「乳酸菌」という腸内細菌になります。元々体内に存在する菌を服用するわけですから、大きな副作用はありません。安全に胃腸の調子を整えてくれるお薬になります。
整腸剤にもいくつかの種類があります。その中でビオフェルミン配合散はどんな特徴のある整腸剤で、どんな患者さんに向いているのでしょうか。ビオフェルミン配合散の効果や副作用についてみていきましょう。
1.ビオフェルミン配合散の特徴
まずはビオフェルミン配合散の特徴についてみてみましょう。
ビオフェルミン配合散は、腸内細菌のバランスを整える働きがあります。具体的には栄養を適切に吸収できる環境を整えたり、有害菌の増殖を抑えたりするはたらきを持ちます。
ビオフェルミン配合散は、乳酸菌の一種である「ラクトミン」と、糖化菌からなっています。
ラクトミンは腸内で増殖しやすいタイプの乳酸菌であり、腸内環境を整えてくれます。また身体に害をもたらす有害菌の増殖を抑えるはたらきがあります。
糖化菌は乳酸菌のはたらきを助けると考えられており、ラクトミンと配合する事でラクトミンの効果を増強させます。具体的には糖化菌はアミラーゼという酵素を分泌します。アミラーゼは大きな糖分を小さな糖分に分解するはたらきがあります。
乳酸菌は小さな糖を分解する事で乳酸や酢酸を作り、これが整腸作用をもたらします。乳酸菌は小さな糖を分解する力はありますが、大きな糖を分解する力がないため、糖化菌がいた方がより効率的に乳酸や酢酸を作る事ができるのです。
ちなみに非常に間違えやすいのですがビオフェルミン配合散は、「ビオフェルミン錠」という整腸剤とは成分が異なります。どちらも乳酸菌である事には変わりませんが、配合散は乳酸菌の一種であるラクトミンに糖化菌が含まれており、錠剤には乳酸菌の一種であるビフィズス菌が含まれています。
どちらも乳酸菌が主成分であるため薬効にも大きな違いがないのが実情ですが、細かく言えば名前が同じなのに配合されている成分は異なっているのです。
ビオフェルミン配合散は、なんらかの原因(腸炎や下痢など)で腸内細菌のバランスが崩れてしまった時、乳酸菌を補う事で腸内細菌のバランスと整え、胃腸症状を改善させます。
胃腸の調子が悪い場合というと、下痢や便秘、腹痛などが挙げられますが、整腸剤は腸内のバランスを整えることでどちらの状態に対しても幅広く効果を発揮します。よく「整腸剤は下痢と便秘のどちらに効くのですか?」と患者さんから質問を頂きますが、腸内細菌のバランスの乱れが原因なのであればどちらにも効くのが整腸剤です。
乳酸菌や糖化菌というのは、一般食品にも含まれている自然な菌になります。乳酸菌が含まれている食品としてはヨーグルトが有名です。また糖化菌は納豆にも含まれる菌として知られています。
このようにビオフェルミン配合散は医薬品ではありますが、化学的な物質ではなく乳酸菌・糖化菌が主成分であるため、大きな副作用が生じることはまずありません。
以上から、ビオフェルミン配合散の特徴として次のようなことが挙げられます。
【ビオフェルミン配合散の特徴】
・乳酸菌の一種であるラクトミンを含有し、整腸効果を発揮する
・乳酸菌のはたらきを助ける糖化菌を含有し、乳酸菌のはたらきを増強する
・大きな副作用がない
2.ビオフェルミン配合散はどんな疾患に用いるのか
ビオフェルミン配合散はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
腸内菌叢の異常による諸症状の改善
ビオフェルミン配合散は整腸剤であり、腸内細菌の1つである「乳酸菌(ラクトミン)」を補うはたらきがあります。乳酸菌はいわゆる「善玉菌」であり、腸内環境を適正に整えてくれます。
そのため、ビオフェルミン配合散は腸内細菌のバランス異常で生じる症状に対して効果を発揮します。この添付文書の記載だと、具体的にどんな時に使うお薬なのかが分かりにくいのですが、具体的には、
- 腸内細菌の異常で生じた下痢
- 腸内細菌の異常で生じた便秘
- 腸内細菌の異常で生じた腹痛
などに用います。
3.ビオフェルミン配合散にはどのような効果があるのか
ビオフェルミン配合散は、どのような機序で整腸作用をもたらしているのでしょうか。
ビオフェルミン配合散は、乳酸菌(ラクトミン)という生菌が主成分となっています。ヨーグルトなどに含まれているため、「乳酸菌」「ラクトミン」という名前を聞いたことがあるという方も多いでしょう。
ラクトミンは元々人間を含む動物の腸内にいる生菌で、乳酸菌の1種になります。腸内に住んでいる菌を腸内細菌と呼びますが、ラクトミンも腸内細菌であり腸内の環境を保つためにはたらいてくれています。
人工栄養の赤ちゃんは母乳栄養の赤ちゃんと比べて、下痢が生じやすいと言われています。人工栄養の赤ちゃんの腸内を見てみると、腸球菌という菌が多く、大腸菌という菌が少なくなっている事が確認されています。
このような赤ちゃんにビオフェルミン配合散を投与すると、腸内細菌のバランスが補正され、下痢症状も少なくなる事が確認されています。
ここから、乳酸菌が腸内環境を整えてくれていると考えられます。
乳酸菌の主なはたらきは、小腸下部・大腸において腸内にやってきた糖を分解するのが主なはたらきです。糖を分解することによって酸(乳酸・酢酸)が作られますが、これにより腸内のpHが適正に整えられ、有害菌の発育を抑えるはたらきがあります。
酢酸には殺菌作用があるため、これが腸内の悪い菌をやっつけてくれるという効果も期待できます。
また乳酸菌の他にビオフェルミン配合散には糖化菌も含まれています。糖化菌は乳酸菌が働きやすい環境を作る役割があります。
糖化菌は、アミラーゼという酵素を分泌する事によってデンプンなどの大きな糖を小さな糖に分解します。乳酸菌は小さな糖を分解して乳酸や酢酸を作る事は出来るのですが、大きな糖は分解する事ができません。
もし糖化菌がいないと、大きな糖である炭水化物がやってきても乳酸菌はこれを利用する事ができません。糖化菌がいる事で糖化菌が炭水化物を小さな糖に分解し、それを乳酸菌が乳酸や酢酸に分解するという事が可能になります。
実際、糖化菌がいた方が乳酸菌がはたらきやすく、その数も増えやすい事が知られています。糖化菌を配合するのとしないとのでは、乳酸菌の増殖が10倍も異なるという報告もあります。
4.ビオフェルミン配合散の副作用
ビオフェルミン配合散にはどのような副作用があるのでしょうか。
ビオフェルミン配合散の主成分は、私達が毎日食べる食品に普通に存在するような菌です。
つまりビオフェルミン配合散の服薬は、普通に食べ物を食べるのと同じ程度の危険性だという事です。そのためビオフェルミン配合散を服薬することによる副作用はほとんどないと考えられます。
ビオフェルミン配合散の副作用に対しての詳しい調査は行われていません。添付文書には、
本剤は安全性が高く、常用量をこえて長期投与しても副作用があらわれることは少ないと考えられる。
と記載されており、安全性は極めて高い事が分かります。
生じうる副作用としては、
・腹部膨満
などであり、重篤な副作用が生じることはまずありません。
5.ビオフェルミン配合散の用法・用量と剤形
ビオフェルミン配合散は、
ビオフェルミン配合散 1g
といった剤形があります。
ビオフェルミン配合散配合散1g中には、
ラクトミン 6mg
糖化菌 4mg
が含まれています。
またビオフェルミン配合散の用法・用量は次のようになります。
-
通常、成人1日3~9gを3回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
ビオフェルミン配合散の主成分である乳酸菌は、胃酸によって殺されてしまうことがあります。これでは服用する意味がありません。そのため、ビオフェルミン配合散はできる限り食後に服薬することが推奨されます。
食後だと、胃内に食事が残っているため胃内の酸性度が弱まり、乳酸菌が死滅しにくくなるためです。
6.ビオフェルミン配合散の作用時間
一般的な医薬品を服薬する場合、「どれくらいで効果が発揮されるのか」「どれくらい効果が持続するのか」ということは重要な情報となりますが、ビオフェルミン配合散は、その主成分が食品などにも含まれていることの多い乳酸菌であり、効果発現時間や作用時間を気にすることはあまりありません。
ヨーグルトを食べたとき、「どのくらいの時間が経てば整腸作用が発揮されるのだろう」と気にする方はほとんどいないでしょう。
そのため、作用時間や半減期などの詳しい試験はあまり行われていないようです。
臨床的な感覚としては、早い方だと半日後には効果は得られる方もいますが、しっかりした効果を得るには2~3日飲み続ける必要があると感じます。
7.ビオフェルミン配合散が向いている人は?
以上から考えて、ビオフェルミン配合散が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ビオフェルミン配合散の特徴をおさらいすると、
・乳酸菌の一種であるラクトミンを含有し、整腸効果を発揮する
・乳酸菌のはたらきを助ける糖化菌を含有し、乳酸菌のはたらきを増強する
・大きな副作用がない
といったものがありました。
大きな副作用なく穏やかに整腸作用を発揮してくれるビオフェルミン配合散は、腸内細菌の異常によって生じている腹部症状に対しては、最初に用いるお薬として適切だと考えられます。
ただし、抗生物質とビオフェルミン配合散を併用する時は注意してください。
抗生物質とビオフェルミン配合散を併用してしまうと、抗生物質は菌をやっつけるのがはたらきですから、ビオフェルミン配合散の主成分であるラクトミンや糖化菌もやっつけられてしまい、整腸作用を発揮できなくなってしまいます。
抗生物質と併用する場合は、ビオフェルミン配合散ではなく「ラックビーR」「ビオフェルミンR」などといった抗生物質に耐性を持った整腸剤を使用するようにしましょう。