ビオスリー(一般名:ラクトミン・酪酸菌・糖化菌)は1963年から発売されている整腸剤です。
「お薬」とは言っても化学的な物質ではなく、その主成分は「乳酸菌(ラクトミン)」「酪酸菌」「糖化菌」という細菌になります。乳酸菌や酪酸菌は元々体内に存在する腸内細菌であり、糖化菌も食べ物に含まれている菌になります。このような自然界の菌を服用するわけですから大きな副作用はありません。安全に胃腸の調子を整えてくれるお薬になります。
整腸剤にもいくつかの種類があります。その中でビオスリーはどんな特徴のある整腸剤で、どんな患者さんに向いているのでしょうか。ビオスリーの効果や副作用についてみていきましょう。
1.ビオスリーの特徴
まずはビオスリーの特徴についてみてみましょう。
ビオスリーは、腸内細菌のバランスを整える働きがあります。具体的には栄養を適切に吸収できる環境を整えたり、有害菌の増殖を抑えたりするはたらきを持ちます。
ビオスリー配合錠は、
・ラクトミン(乳酸菌の一種)
・酪酸菌
・糖化菌
の3種類が含まれています。ちなみにビオスリーは、3種類の菌が含まれているため「bio-three(ビオスリー)」という商品名なのです。
ラクトミンは乳酸菌の一種です。乳酸菌は腸内で糖から乳酸と酢酸を作り、腸内環境を整えてくれます。また身体に害をもたらす有害菌の増殖を抑えるはたらきがあります。ラクトミンは腸内で増殖しやすいタイプの乳酸菌であり、整腸作用が期待できます。
酪酸菌も乳酸菌と同じく、腸内で糖から酪酸や酢酸を作り、腸内環境を整えるのに役立ちます。
糖化菌は乳酸菌のはたらきを助けてくれます。具体的には糖化菌はアミラーゼという酵素を分泌します。アミラーゼは大きな糖を小さな糖に分解するはたらきがあります。乳酸菌は小さな糖を分解する力はありますが、大きな糖を分解する力がないため、糖化菌がいた方がより効率的に乳酸や酢酸を作る事ができるのです。
ビオスリーは、なんらかの原因(腸炎や下痢など)で腸内細菌のバランスが崩れてしまった時、これらの菌を補う事で腸内細菌のバランスと整え、胃腸症状を改善させます。
胃腸の調子が悪い場合というと、下痢や便秘、腹痛などが挙げられますが、整腸剤は腸内のバランスを整えることでどちらの状態に対しても幅広く効果を発揮します。よく「整腸剤は下痢と便秘のどちらに効くのですか?」と患者さんから質問を頂きますが、腸内細菌のバランスの乱れが原因なのであればどちらにも効くのが整腸剤です。
また乳酸菌や酪酸菌、糖化菌というのは一般食品にも含まれている自然な菌になります。乳酸菌が含まれている食品としてはヨーグルトが有名です。また糖化菌は納豆にも含まれる菌として知られています。
このようにビオスリー配合錠は医薬品ではありますが、化学的な物質ではなく乳酸菌・酪酸菌・糖化菌が主成分であるため、大きな副作用が生じることはまずありません。
以上からビオスリーの特徴として次のようなことが挙げられます。
【ビオスリーの特徴】
・乳酸菌の一種であるラクトミンを含有し、整腸効果を発揮する
・酪酸菌を含有し、整腸効果を発揮する
・乳酸菌のはたらきを助ける糖化菌を含有し、乳酸菌のはたらきを増強する
・大きな副作用がない
2.ビオスリーはどんな疾患に用いるのか
ビオスリーはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
腸内菌叢の異常による諸症状の改善
ビオスリーは整腸剤であり、俗にいう腸内細菌の「善玉菌」である「乳酸菌(ラクトミン)」「酪酸菌」を補うはたらきがあります。また、糖化菌という乳酸菌のはたらきを助けてくれる菌も含まれています。
そのため、ビオスリーは腸内細菌のバランス異常で生じる症状に対して効果を発揮します。この添付文書の記載だと、具体的にどんな時に使うお薬なのかが分かりにくいのですが、具体的には、
- 腸内細菌の異常で生じた下痢
- 腸内細菌の異常で生じた便秘
- 腸内細菌の異常で生じた腹痛
などに用います。
幼小児におけるビオスリーの有効率は、
- 胃腸炎に対する有効率は100%
- 下痢症に対する有効率は93.2%
- 消化不良性下痢症に対する有効率は88.8%
- 便秘症に対する有効率は83.3%
成人におけるビオスリーの有効率は、
- 便秘症に対する有効率は100%
- 急性・慢性腸炎に対する有効率は97.8%
- 下痢便秘交代症に対する有効率は60.0%
と報告されています。
3.ビオスリーにはどのような効果があるのか
ビオスリーは、どのような機序で整腸作用をもたらしているのでしょうか。
ビオスリーは、
・乳酸菌(ラクトミン)
・酪酸菌
・糖化菌
という3種類の生菌が主成分となっています。乳酸菌はヨーグルトなどに含まれているため、そのという名前を聞いたことがあるという方も多いでしょう。
ラクトミンは元々人間を含む動物の腸内にいる生菌で、乳酸菌の1種になります。腸内に住んでいる菌を腸内細菌と呼びますが、ラクトミンも腸内細菌であり腸内の環境を保つためにはたらいてくれています。
乳酸菌の主なはたらきは、小腸下部・大腸において腸内にやってきた糖を分解するのが主なはたらきです。糖を分解することによって酸(乳酸・酢酸)が作られますが、これにより腸内のpHが適正に整えられ、有害菌の発育を抑えるはたらきがあります。
酢酸には殺菌作用があるため、これが腸内の悪い菌をやっつけてくれるという効果も期待できます。
また酪酸菌も腸内細菌の1種であり、乳酸菌と同じく善玉菌として整腸作用を有しています。
酪酸菌も、小腸下部・大腸において腸内にやってきた糖を分解するのが主なはたらきです。糖を分解することによって酸(酪酸・酢酸)が作られますが、同様に腸内のpHを整え、有害菌の発育を抑えるはたらきがあります。
酪酸菌と乳酸菌はともに共生関係にあり、両者を混ぜる事でお互いの菌が増えやすくなる事も報告されています。ビオスリーは乳酸菌と酪酸菌の両方が入っている事で、単独で投与するよりも効率的に整腸作用を発揮できるのです。
またビオスリーには糖化菌も含まれています。糖化菌は乳酸菌が働きやすい環境を作る役割があります。
糖化菌は、アミラーゼという酵素を分泌する事によってデンプンなどの大きな糖を小さな糖に分解します。乳酸菌は小さな糖を分解して乳酸や酢酸を作る事は出来るのですが、大きな糖は分解する事ができません。
もし糖化菌がいないと、大きな糖である炭水化物がやってきても乳酸菌はこれを利用する事ができません。糖化菌がいる事で糖化菌が炭水化物を小さな糖に分解し、それを乳酸菌が乳酸や酢酸に分解するという事が可能になります。
実際、糖化菌がいた方が乳酸菌がはたらきやすく、その数も増えやすい事が知られています。糖化菌を配合するのとしないとのでは、乳酸菌の増殖が10倍も異なるという報告もあります。
4.ビオスリーの副作用
ビオスリーにはどのような副作用があるのでしょうか。
ビオスリーの主成分は、私達が毎日食べる食品に普通に存在するような菌です。
つまりビオスリーの服薬は、普通に食べ物を食べるのと同じ程度の危険性だという事です。そのためビオスリーを服薬することによる副作用はほとんどないと考えられます。
実際、ビオスリーの副作用発生率を調査したところ、355例中副作用は0例であったと報告されています。
生じうる副作用としても、
・腹部膨満
などであり、重篤な副作用が生じることはまずありません。
5.ビオスリーの用法・用量と剤形
ビオスリーは、
ビオスリー配合散 1g
ビオスリー配合錠
ビオスリー配合OD錠
といった剤形があります。
ビオスリー1錠中には、
ラクトミン 2mg
酪酸菌 10mg
糖化菌 10mg
が含まれています。
ビオスリー配合錠2錠と、オスリー配合散1gが同じ量になります。
またビオスリー配合錠の用法・用量は次のようになります。
-
通常成人1日3~6錠(1.5g~3g)を3回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
ビオスリーに含まれる乳酸菌や酪酸菌・糖化菌は、胃酸によって殺されてしまうことがあります。これでは服用する意味がありません。そのためビオスリーはできる限り食後に服薬することが推奨されます。
食後だと、胃内に食事が残っているため胃内の酸性度が弱まり、菌が死滅しにくくなるためです。
6.ビオスリーの作用時間
一般的な医薬品を服薬する場合、「どれくらいで効果が発揮されるのか」「どれくらい効果が持続するのか」ということは重要な情報となりますが、ビオスリーは、その主成分が食品などにも含まれていることの多い菌であり、効果発現時間や作用時間を気にすることはあまりありません。
ヨーグルトを食べたとき、「どのくらいの時間が経てば整腸作用が発揮されるのだろう」と気にする方はほとんどいないでしょう。
そのため、作用時間や半減期などの詳しい試験はあまり行われていないようです。
臨床的な感覚としては、早い方だと半日後には効果は得られる方もいますが、しっかりした効果を得るには2~3日飲み続ける必要があると感じます。
7.ビオスリーが向いている人は?
以上から考えて、ビオスリーが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ビオスリーの特徴をおさらいすると、
・乳酸菌の一種であるラクトミンを含有し、整腸効果を発揮する
・酪酸菌を含有し、整腸効果を発揮する
・乳酸菌のはたらきを助ける糖化菌を含有し、乳酸菌のはたらきを増強する
・大きな副作用がない
といったものがありました。
大きな副作用なく穏やかに整腸作用を発揮してくれるビオスリーは、腸内細菌の異常によって生じている腹部症状に対しては、最初に用いるお薬として適切だと考えられます。
ただし、抗生物質とビオスリーを併用する時は注意してください。
抗生物質とビオスリーを併用してしまうと、抗生物質は菌をやっつけるのがはたらきですから、ビオスリーの主成分である乳酸菌や酪酸菌・糖化菌もやっつけられてしまい、整腸作用を発揮できなくなってしまう事があります。
ビオスリーは
- セフェム系(フロモックス、メイアクトなど)
- アミノグリコシド系(ゲンタマイシンなど)
といった抗生物質には比較的耐性がある事が報告されているため、これらの抗生物質との併用であればまだ良いかもしれません。
しかしそれ以外の抗生物質と併用する場合は、抗生物質に耐性を持った整腸剤もありますので、そちらを検討した方が良いかもしれません。
主治医とよく相談して使用するようにしましょう。